一同が体育館を後にしようと扉へ向かうと楸さんと花が最後にゆっくりと歩いてきた。
「裕ちゃん、楸ちゃんをおんぶしてあげて」
「はい?」
「雪菜さんとのゲームで体力使いきっちゃったみたいなの」
楸さんは力無く頷いた。
昨日の筋肉痛があるのになと思いながらも腰をかがめ花に支えてもらいながら楸さんを背負った。
これは明らかに僕より軽いな。
「ごめん…」
ボソっと耳元で呟かれたのだが聞き取れるかどうか微妙な声量だった。
「気にしなくていいよ」
答えたのは花。
「何で花が答えるんだよ」
「どうせそう思ってるんでしょ?」
「うん、まあね」
「ありがとう…」
これまた聞こえるかどうかの声量で呟かれた。
体育館の玄関口で靴に履き替える。花が楸さんの靴を持って前を歩いたため楸さんは体育館シューズのままだ。
そのままプールサイドまで行くと聞いた事のない声のアナウンスが聞こえた。
「試合開始5分前です。選手の方はさっさと準備しやがって下さいね」
プールサイドに置かれた本部テント内の椅子にかったるそうに男子生徒が座っている。
マイクを握っているのもこの人なので今のアナウンスはこの人だろう。
そこら中からブーイングが飛ぶ飛ぶ。
そんなブーイングの中男子生徒は知らん顔だ。
呑気にペットボトルのお茶を飲んでるあたりかなり度胸の座った人なのだろう。
声が高くて笑えたというのが僕の感想だ。
茜さんと葵さんは既にプールサイドで軽く準備運動をしており、須貝先輩が小走りにやってきて準備運動に加わった。
試合の良く見える各コースのスタート位置は壁が高めにされてあるため水飛沫もほとんど来ない。
プールサイドには濡れてもいいようにとジャージで観戦する人が多数いるが、自分のクラス以外の試合でそこまで濡れても近くで見たいという人は少ない…はずだった。
遠目に見たら茜さんはモデルのような体型をしているのがわかる。海辺でボードを持っていたら女サーファーに見えるだろう。
葵さんは髪を後ろで縛っており、左手に手術用の手袋をつけているところだった。
ずーっと突っ立ったままだった僕と花はまともに座る場所を見つけられず、階段近くの壁際で観戦する事にした。
勿論僕は楸さんを背負ったまま。
その楸さんはスウスウ息を吐きながら眠ってしまっている。
「疲れちゃったんだね」
花が呟きながら預かっていた僕の学ランを楸さんに被せた。
その相手をしていた雪菜さんは7番まであるスタート位置の3番という絶妙な位置から観戦するようだ。疲れた様子は全くない。
隣には誠さんがおり、その後ろに与一と椿さん。次の試合に出る2人はジャージの下に新しい水着を着ている。
乙さんは戻って来てないようだ。
「ここにいたんだ」
後ろの入り口から乙さんが後ろ髪をゴム紐で縛りながら現れた。
「あ、乙っちゃん」
乙さんは競泳用水着の上に上着のジャージだけの姿だ。
「あらら、楸ちゃん寝ちゃってるね」
僕の後ろの楸さんの顔を覗き込んでそう言って続けた。
「与一とかはどこ?」
「与一なら、ほらあそこ」
花が指差した先ではプールに入った茜さんと雪菜さんが何やら話しこんでいる。
男衆3人は…と考えていたら何故か椿さんに睨まれてしまった。
「あの2人ちゃんと着替えてた?」
「うん、椿さんが与一を更衣室に引きずり込んでたからね」
「それなら問題ないね、次勝ったら茜先輩達とだからじっくり拝見しましょうか」
そっか、バスケの時はうまくブロックがばらけたけど、今回は3回戦でぶつかる組み合わせだったんだなと本部横にある組み合わせ表を確認した。
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雪月花
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