麻婆豆腐は普通に美味しかった。
ゴーヤーチャンプルの時のような極端な味ではなかったのを見ると、下ごしらえは誰がやったのだろうと疑問になる。
でもまあ、実際に調理していたのは茜さんなわけで、普通に料理できるんだなと実感した瞬間だった。
誠さんは何だか電卓を持ち出してウンウン唸っている。
こんな誠さんは初めて見るわけだが、この人でも悩む事あるのかと人間らしさを感じた。
雪菜さんは誰かと電話している…大方塒さんあたりだろう。明日の葵さんの事を話しているに違いない。
当の葵さんは卓袱台に突っ伏して寝てしまっている、まるで猫のようだ。
部屋に掛け時計なんて洒落た物がないので携帯で時間を確認するとPM9時過ぎ、そろそろ帰ってくれないかなと思ってると葵さんが目を覚ました。
「今何時ですかぁ〜?」
寝起きのせいかいつも以上にふにゃりとした様子。
「9時過ぎですね、まだ帰らなくてもいいんですか?」
「去年の部活中はこの時間はまだ部室にいましたよ」
ニッコリと微笑まれた…ということはまだ居座るつもりか。
電話を終えた雪菜さんが、
「今日は裕君も疲れたでしょうからそろそろ帰ろうか。押しかけちゃって悪かったわね」
今回は悪びれた様子で謝られたため何だか嬉しかった。
「いえ、先輩方もお疲れ様でした」
そういえば、誰にも「先輩」って敬称は使ってなかったなとふと思い出す。
この場合はこれでいいんだろうな。
誠さんがまだブツブツ言っていたが、
「もうこんな時間か」
そう呟いて紙やら電卓を鞄に入れて立ち上がった。
「葵さんは明日どうするんですか?」
「塒ちゃんにも聞いたけど代理は無理みたいだからね…葵、明日出られそう?」
「そんな深い怪我じゃないし大丈夫ですよ」
「一応防水の手袋の許可はもらえたから準備しておくわ、無理はしないでね」
「はい」
これまたニッコリと微笑む葵さん。左手の絆創膏が痛々しい。
じーっと絆創膏を見ていると、
「大丈夫ですよ」
と、顔を覗き込まれながら言われてしまった。
「そうですか…。じゃ、明日頑張って下さいね」
食器を洗ってくれていた茜さんが「任せろー」と答えてくれた。
何だかこの人達の負けるとこは想像できないんだよな。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「またなー」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
順番に雪菜さん、僕、茜さん、葵さん、誠さんだ。
4人が出て行ったのを見届けてチェーンと鍵をしっかり閉めてから風呂に入って寝た。
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雪月花
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