「って、冷蔵庫空じゃん!」
全くの空というわけではないが、冷蔵庫にはまともな食材が入っていない。
「あら、そうだったかしら?」と優雅に言い放つ雪菜さんがカウンターからこちらを覗きこんでいる。
「いくら何でも買出しまで行けとは言いませんよね?」
一応買出しは拒絶してみた。
「そうねぇ、今から買出しに行かれてもみんなお腹すかせちゃうし…そうだ!」
何か名案を浮かべた様子の雪菜さんを黙って見守る。
「外に食べに行きましょう」あたりの返事を期待して…
「裕君、昨日結構大量に買い込んでたよね?裕君の家の食材使いましょう♪」
悪びれも言うその姿が人気の原因だとは露とも知らず、
「えー、マジですかー?」と棒読みで答えておいた。
「マジマジ、大マジ♪」何だか楽しそうな発言を繰り返す雪菜さんは確信犯だな。
半分諦めかけて悩んでいると「ダメかな?」と上目遣いで覗き込んでくる。
うわー、これ強烈だーとか思って、「しょ、しょうがないですね」と緊張してしまう僕に乾杯。
「じゃ、あと宜しく〜」と楽しげに言い放ち、皆の元へ戻っていく雪菜さんが小悪魔に見えた。
何だか談笑が聞こえる中、一人寂しく1階下の自分の部屋へ戻り、学ランだけ脱いでスーパーの袋に冷蔵庫の食材を入れ終えて3階に戻った。
時刻はPM12:10。
居間でくつろいでる皆様は「笑って○○とも」を見て騒いでいる。
一人キッチンで食材と睨めっこし、何とか作る料理を決め取り掛かる。
昼食会とか言われたからにはそれなりの品数を用意しなければならないようだし、人数も7人と少し多い。
何より皆さんチラチラこっちを見ながら「お腹空いたねー」とか言ってくるため急ぎで作れる物にしなければならない。
色々悩んだ結果、ご飯を炊く時間が勿体無いとの考えで、スパゲッティに決定。
とりあえず多めに麺を茹で(麺は棚にあった)ミートソースやら明太子やらを5種類程準備しておいた。
30分程で作り終え、居間の方へ運んでいると葵さんが手伝ってくれた。
ここで葵さんが出てきたのはたまたま目があったというだけで、プレッシャーをかけたわけではない事を言っておこう。
何とか運び終え、「お待たせしました」と僕も座る。
「わー」とか「おー」とか感嘆の声が聞こえたので多少嬉しくなったが、微妙に棒読み臭いのが気になった。
居間の卓袱台(コタツだったけど布団は外されている)でスパゲッティの昼食会とはアンバランスな気もしたが皆さん気に入ってくれたようで何よりだ。
「裕ちゃん料理結構上手なんだね〜」と花が言ってくれたり、「うちの食材をよく活かしてるよ!」と何故か自慢気な誠さん。
与一は…味とか気にしてない様子でひたすら量を食べようと必死だったが、葵さんの「お行儀良くしましょうね」的なプレッシャーに気圧されて静かになった。
雪菜さんはというと、何だか料理評論家の如く「ふむふむ」とか言っていた。
茜さんは与一に負けじと物凄いペースで食べていたが、食べ方は至って普通なので葵さんに注意を受けることもなさそうだった。
必然的とでも言おうか、何故か食器の片付けなんかも僕の仕事らしく、一人でガチャガチャと皿を洗っていた。
キッチンから居間の様子を伺うと普通にゲームをしてる茜さんと与一。
格ゲーでかなり盛り上がってるらしく花と誠さんが「おー」とか「凄い」とかの声を上げていた。
雪菜さんと葵さんが何やら話し合ってるらしく、実に楽しそうだ。
ということで、洗い物を終えた僕はと言うと…雪菜さんに「ちょっと来て」と手招きされた。
「何ですか?」
「お料理美味しかったわ、ありがとう」
「いえ、大したものはできませんでしたが」
「そんなことないですよ、とっても美味しかったです」
年下にも敬語な葵さんが眩しかった。
「それでね、うちの部は夜遅くなることが多くなると思うの」
何か嫌な予感がしたが、「は、はい…」と受け、
「だからね、えーと…」
またも上目遣いで見られる。
葵さんの笑顔のプレッシャーも付加され…
「もしかして、これからも僕に料理を作れと?」
「強制はしないんだけどね、ダメかな?」
またも上目遣い。
「いいじゃん、裕ちゃんの料理美味しかったよー」といつの間にか僕の後ろに立ち会話に参加する花。
雪菜さんが花にニッコリと微笑み、どうにも拒否できない状況を作り出される。
「でも、食費が…」
ようやく考え付いた言い訳を言ってはみるが、
「あ、それなら部費から落とせるから心配ないわ」
と、軽く流され「わかりましたよ」と言ってしまった。
「それに、部費で食事ができれば裕君の生活費も浮くでしょ?メリットこそあれデメリットはないじゃない」
労力というデメリットはあるが、まあ、金が浮くということですんなりOKしてしまった。
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雪月花
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