校長の息子の与一に引き連れられて高校の敷地の端の方へ歩く僕と花。
最後にはっきりと「来なかったら親父に頼んで二人は高校生じゃいられなくな…」と言いかけたので花が与一の股間に思いっきり前蹴りをかましたのだ。
お陰で僕と花の前を歩く与一の足取りはおぼつかない…
他の部活動生の姿が全く見えない場所…僕の住んでいるマンションと学校敷地のフェンス前まで連れてこられた。
マンションの方から学校敷地内に入ろうとは考えもしなかったので、そこにフェンスと同化したように見える扉があるとは思いもしなかった。
「ねーねー、ここって裕ちゃんの住んでるマンションだよね?」
「あ、裕の家ここだったのか?」
実に白々しい返答をありがとう与一君。
だって、花の攻撃をくらって青い顔をしているものの、口元が笑ってるし。
「で、ここで…どうすんの?」
「姉ちゃんと先輩達がここに来るまで待ってろって言われてるんだ」
「与一もどこで活動してるのかとか知らないのか?」
「当たり前だろ、俺だって姉ちゃんに無理矢理…(ビクッ」
与一が口を閉ざすと同時に校舎の影から例の4人組が現れた。
「あの人達が工作部の人?」と耳打ちしてくる花。
一応面識はあったので「与一の話だとそうだな」と答えておいた。
「でもそんな恐そうなお姉さんはいそうにないけど…」
「あのおっとりした人がそうらしいよ」
「えー、嘘ー!?」
まあ、僕も実際認識して会ってみるとそうは思えないしな。
誠さんと茜さんは何やら真面目な表情で話し合ってる。
与一が姉ちゃーんと間延びした声を出しながら4人に駆け寄る。
良く見てみると誠さんと茜さんってほとんど身長一緒なんだなー、誠さんの方が少し高いけどとか考えてると、4人+与一が僕と花の目の前まで来ていた。
相変わらず二人で話し込んでる誠さんと茜さん。何かに怯えた様子の与一と談笑する葵さん。
この場は部長の雪菜さんに任せるということなのだろう、雪菜さんが話しかけてきた。
「昨日ぶりね」
「あ、ご無沙汰してます」
「ご無沙汰って程じゃないと思うけど…」
「あ、そうですね」
アハハと笑ってみる。
「えっと…そちらが常盤さんね?」
僕の笑顔は何?と言いたくなるほどナチュラルにかわされた。
「はい、常盤 花と言います」
元気良くお辞儀しながら答える花。
「私は部長をやってる柊 雪菜、ってどこかで会ったことないかしら?」
そういや、花も雪菜さんの名前聞いて何か反応してたな…。
「ついでに裕君も昔会ったような気がするんだけど…」
僕はついでですか?と危うく言いそうになったが、
「えーと、過去は振り返らないタチなんで」
と答えておいた。
「私と裕ちゃんは幼稚園が一緒だったんですよ〜」
「あら、そう。それなら…笹川幼稚園かしら?」
うおう、見事に言い当てやがった。
「「あ、そこです、そこ!」」
無駄にハモる僕と花。
「じゃあ、お久しぶりね。でも、立ち話も何だからまずは部室へ行きましょうか」
チャラリと鍵を出す雪菜さん。
例のフェンスと見間違えそうな扉を開け、マンションの階段を上がる。
「ついてきて」
と言われ、初めてこのマンションの3階に踏み込んだ。
「へ?」
思わず間の抜けた声を上げる僕。
1階にも2階にも3部屋ずつ部屋はあるのに…3階は玄関が1つだけだったからだ。
雪菜さんが別の鍵でドアを開けるとそこはマンション3部屋分の広さを持つ空間があった。
「えーと、これはどうなってんですかね?」
玄関に靴はないため今は人がいないようだが、どうみても生活してると思われるスペースがあった。
入って左側にはキッチンとその前に大きめのコタツ、その他TVなど諸々置かれた居間。
右の方には木材を加工する器具やら見たことのない造形物などが置かれていた。
「ああ、ここが工作部の部室よ」
と、さらりと言いのける雪菜さん。
いつの間にやら葵さん、茜さん、誠さんが「ただいまー」とか言って居間でくつろぎ始めた。
与一も「何だこれ?」と意外に普通の反応…この場合これが普通だよな?
花はというと「うわー眺め綺麗〜」って、半分現実逃避気味にベランダの外の風景を眺めている。
「とりあえず座って」と雪菜さんが着席を促すため花の事はほっといて与一と座椅子に腰掛けた。
2〜3分後「お待たせ〜」とキッチンで何やらやっていた雪菜さんがお茶を乗せたお盆を持って出てくる。
「花ちゃん、いらっしゃい」
何かをなだめるように花を呼ぶ雪菜さんの表情が伺えない。
現実逃避なのか、普通に感動していたのかわからない表情の花が僕の横に腰掛ける。
上座に座っている雪菜さんが話し始める。
「いきなりで驚いたと思うけど、ここが工作部の部室ね。校長公認だから特に心配することはないわ。活動内容は向こうを見ればわかると思うけど工作ね。とりあえず皆で自己紹介でもしましょうか」
上座の雪菜さんの左から葵さん茜さん誠さんの順で座っており、雪菜さんの右側から顔の青い与一僕花の順で座っているのは備考ということで。
「知ってると思うけど私は柊 雪菜。2年だけどこの工作部の部長をやってます。次、葵ちゃん」
「日高 葵と言います。雪菜ちゃんと同じで2年生です」
タイミングよく茜さんが切り出す。
「あたしは遠山 茜な。校章見ればわかるだろうけどあたしらみんな2年だから。呼び方は茜でいいよー」
爽やか笑顔の誠さんが「僕は丸川 誠。スーパーマルカワの店長の息子なんだ、よろしく。僕も呼び方は誠でいいからね」
「じゃ、次与一君」
雪菜さんが促す。
何故か顔を赤らめながら「日高 与一です。知ってると思いますが、葵姉ちゃんの弟です」
無難な挨拶だなと思って僕も自己紹介しようと口を開くと「裕君はみんな知ってるからいいわ、花ちゃんお願い」
「え?あ、私ですか?常盤 花です。宜しくお願いします」
何故か皆が知ってるというだけで自己紹介させてもらえず不満が残るが、めんどくさそうなので諦めた。
「一応ここは校長公認だけど、他の部活の生徒には知られてないから口外は禁止ね。呼び方はみんな下の名前で呼んじゃいましょう」
誠さんの笑顔とはまた別の爽やかさを伺わせる雪菜さんの発言に皆納得して「うん」とか「はい」と返事する。
「今日は親睦会って事で昼食会でもしましょうか」
「いいね〜」「いいですね〜」と発言が重なる一同。
「えっと、裕君は一人暮らしだったよね?」
いきなり振られてびっくりするも、「あ、はい」と答えた。
「やっぱ自炊とかするんだよね?」
「え、あ、はい…一応しますけど…」
「じゃ、よろしく♪」
惚れちゃいそうな笑顔を向けられるも 「は?」
と間の抜けた声を上げてしまう。
「だから、料理の腕前見たいから裕ちゃんがご飯作ってってことだよ」
「そういう事〜」
何故か花が言い、雪菜さんが答える。
他の2年生陣は成り行きを見守っている…のか?飢えたような視線を僕に向けてくる。
「作ってくれないんだ…」
すっごいガッカリした様子の雪菜さんがそんな事を言うので、
「わかりましたよ、味は保障しませんよ?」
と答えてキッチンに立つことになった。
立ち際に「あー野郎の手料理かよ」と漏らした与一の後頭部を膝で蹴っておいた。
「いてーな、てめー」と与一がこちらを振り向いた瞬間、葵さんの湯のみが宙を舞った。
当然与一の死角になっているため、与一の右側頭部に湯のみは当たり、与一は血を流しながら葵さんの方を見て大人しくなった。
葵さんはニコニコと与一と僕を見比べている。
何か恐いのでキッチンへ駆け込んだ。
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