「メシ食いに行かね?」
与一の一言で学校近くのラーメン屋に来ることになった。
高校生にはラーメンくらいで丁度いいとは思うけど、校長の息子がいきなりラーメンとか言い出したのには驚いた。
金持ちなんじゃないかな?と偏見を持ってた事は秘密にしておいた。
何だかんだで花と与一も仲良くなり…というか、話が噛み合わない癖にお互い笑顔を振りまいてるあたり、花もなかなかの天然ぶりを発揮していた。
まあ、花がお嬢様みたいな雰囲気をかもし出していたらラーメン屋なんて僕には言えなかったけれども。
時間が時間なだけあって、ラーメン屋は中々に混雑していた。少し味に期待。
与一が「ここのラーメンは絶品だ、特に麺とスープがな」
とかなんとかよくわからん発言をしてくれた。
20分程でようやく3人の席を準備してもらい、与一は「チャーシューメン大盛り!」と叫んで「当店にチャーシューメンはありません」とかさらりと流されただの大盛りラーメンを頼んでいた。
その様子が非常に残念そうだったのは言うまでも無い。
花はラーメン、僕はラーメンライスを注文し、部活の話題が始まりかけていた。
与一は工作部だか何だかレアな部活に入る事になってるらしく、しきりに僕と花を勧誘してきた。
工作部って具体的にどんな工作すんのかと疑問に思ったため、聞いてみると
「木材とか鉄材加工して自己満足する部活じゃねーの?」とか投げ遣りな返答がきた。
勧誘しといてよくわからんとは何様のつもりだとは思いつつも、普通に質問を続ける花の前ではきついことは言えない。
どうやら与一の姉が工作部に入っているらしく、姉に入れと言われており、逆らったら相当酷い目に遭うとのことで犠牲者仲間がほしいらしい。
ようやく注文した物が運ばれてきたので無駄に行儀良くラーメンを啜っていると与一が「ズゾゾゾゾゾゾ」と盛大な音を立ててラーメンを口に運んでいた。
花の方はというと、何か普通だ。チュルチュルと小さな音をたてながら食を進める。
その様子が何故か気に食わなかったらしい与一は「ラーメンはもっと音をたてて食うもんだ!」と花に吹っかけていた。
花は「何よぉ!」とか言いながらメンマを与一の顔面に箸でペシャリと投げつけた。
何で食事一つ静かにできないもんかなと「静かにしろよ」と与一に注意したと同時に花のメンマ攻撃第二段が与一の顔面を襲った。
花の目標は眉間、ちょうどこちらを向いていた与一は眉間のあった位置に左目が来る…
無駄に大きく目を見開いていたのもあり、メンマの先端部分が見事に左目にクリーンヒットをかました。
「うおおおおおおおおお!!!あちいいいいいいい!!!」
叫びながら洗面所へ走る与一。
もうめんどくさくなったので花に「やりすぎじゃないの?」と尋ねたら「別にいいんじゃない?」と他人事の様子。
今日会ったばかりだが、与一ならこのくらい屁でもないなと思ったため、さっさと食べ終えて花が食べ終えるのを待つことにした。
花が食べ終える頃にようやく与一が戻ってきて、「熱いじゃないか、アハハ」と無駄に爽やかな笑顔を花に向ける。
「フフフ」と花が返すと「じゃ、お前等工作部入部決定な」とさっきより爽やかな笑顔を僕に向けてくる。
「何で僕もなんだよ」と返すと「だって熱かったんだよ」って、わけのわからない事を言う与一。
何にせよ、入部届けさえ出さなければ与一の目論見も無駄に終わるはずなのでその場は流しておくことにした。
大体、一人暮らしの僕に部活なんてする余裕はない。
与一が伸びきったラーメンを食べ終え、普通に個別で勘定を済ませ店を出た。
「んじゃ、俺あっちだから」と僕の住んでいるマンションとは別の方向に走り出す与一。
「何で僕の家の方向知ってんだよ」とぼやくと「校長の息子だからじゃない?」とさも平然と言う花。
「んで、花はどっちなんだ?」
「私は…どっちだろ?」と周りをキョロキョロ見渡す花。
「多分あっち」と学校の方角を指差す花。
「じゃあ、一緒の方向だね」
簡単に切り返して一緒に歩き出した。
あるきながらの話は自然と美月の話題になった。
「ねーねー、美月ちゃんは元気?」
「確か2学期からこっちに来るって言ってたな」
「へー、じゃああの一個空いてる席かもね〜」
と、ヤケに嬉しそうだ。
幼稚園時代はよく一緒に遊んでたし、いっつもあっちへこっちへフラフラしていた花の手を引いていたのも美月だったからな。
ただ…
事あるごとに問題を起こす花に美月はいつも優しく接してはいた。
だが、いつも僕が後処理をすることになってしまっていた。
二人の逃走速度の凄さは僕の比じゃなかったからいつもとばっちりを食らうのは僕だった。
ある時は犬に石を投げ当て、ある時は石を人の家に投げ込み、ある時は石で気に食わない男の子を撲殺しかけたりと。
って、こいつ石絡みに事件多いよな、しばらく石から遠ざけようと決意した。
因みに後処理をしたのは言うまでもなく僕。まあ気に食わない男の子ってのが僕だったのもご愛嬌だ。
いつも先に逃げられた仕返しにおやつを奪い取ってやったら鬼神の如く殴りかかってきたからな。
あれから二人に逆らえなくなったんだっけ…
と悲しい(?)回想に浸っていたらマンションについてしまった。
「あ、じゃ僕ここだから」と花に別れを告げようとすると、
「家まで送ってよ」と言われ、「ヤ…」と返しかけた瞬間、あの逆らえなかった日々を思い出してしまった。
あの撲殺されかけた時は美月が抑止力になってくれたが今はいない。
与一への容赦ないメンマ攻撃からも十分攻撃性は伺える。
制裁のあとの「フフフ」って笑みも健在だったため、逆らえば命にかかわると一瞬で判断し、無駄ににこやかに
「家はどの辺だっけ?」と尋ねてみた。
花は満足げに「ここから3分くらいかなー」と言い、家に着いたら「ありがと」とだけ言って家に入って行ってしまった。
優しくしてやれば可愛いもんだけどな…とぼやきながら家に戻った。
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雪月花
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