時刻はPM3時前。
居間は相変わらずだ。
何か花がじーっとこっちを見つめている…耐えろ、耐えるんだ!
その視線に殺気がこもってきた。
しょうがないので手招きしてみる。
常人とはかけ離れた素早さで作業場のドアを開け入ってくる花。
怒りと安堵の入り混じった表情で僕を睨みつけてくる…怒り80%ってとこか。
しばらくの沈黙…
耐え切れず口を開いてしまった。
「雪菜さんは何であんなに殺気放ってんだ?」
「そんなの私が知るわけないでしょ!何でもっと早く助けてくれなかったの!」
助けるも何も手招きしただけなんだけどな。
「1口食べてすぐに狸寝入りした花が悪いんだろ」
「うっ、それは…」
形勢逆転。
と同時に雪菜さんが作業場に入ってきた…見た目穏やかな笑顔を浮かべて…
「花ちゃん狸寝入りしてたのね」
「いえ、あ、その、それはですね…裕ちゃんの嘘で…」
「じゃ、どうして寝ちゃったのかな?」
「や、味が強烈で…いや、美味しかったですよ!美味しすぎて気を失っちゃったんです!」
僕は2人のやり取りを怯えながら見守るだけだ。
見守るというより、いつ標的が僕に移るかわからないので視線と体が動かせないというのが正しい。
「次からは残しちゃ駄目よ」
「は、はい!わかりました!」
こうやって人の上に立っていくのかこの人は。絶対大物になるぞ、多分。今よりも…
「で、裕君」
「はひ!?」
声が裏返った。
「これ朝のタクシー代ね」
封筒を渡される。
「中身ちゃんと確かめといてね」
意味ありげな言葉を残して雪菜さんは作業場を去っていった。
「タクシー代って?」
雪菜さんがいなくなって緊張が解けたのだろう、いつもより気の抜けた感じだ。
「ん、まあ…」
簡単な説明をして封筒を開ける。
中には…
5千円札と4つ折にされた白い紙が入っていた。
恐る恐る紙を開いてみる…
真っ白な紙には何も書いていない。そして、それがとてつもなく恐い。
ただそれだけの紙なのだが、これが雪菜さんなりの制裁なのだろうと理解した。
普通の無言のプレッシャーならこちらから口火を切れば済む事なのだが、こういった行動は対処しようがないためただ怯えるのみだ。
ちらりと紙を盗み見た花が「これは…恐いね」と僕が認めなくなかった事を口にしてくれる。
「ああ…」
春の陽気とは裏腹に背筋に悪寒が走った土曜日の午後だった。
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雪月花
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