「ぎゃー今度は辛い!」
そう、辛いのだ。正直だな、与一は。
って、さっき自分の分は食い尽くしたはずの与一が何故また食ってる?まあいいけど。
何かゴーヤーの緑色にキムチジャムの赤であろう色素が混じって何ともグロテスクな色合いだ。
葵さんは1口食べて気を失ってしまった模様。だから与一は気を失わされてない。
日高家の人間はそれぞれ気を失いやすい弱点のような物があるのだろうか?
そんな呑気な思考を吹っ飛ばすかのような辛さが伝わってくる。
辛い!そしてちょっと苦い!何これ?拷問?劇薬!?
以前やった通りに花は寝たフリをしている。
苦い状態のを食べた4人(与一含)はもう満腹と言った表情で半分あっちの世界に旅立ってるようだ。行ってらっしゃい。
誠さんは…小説読んでるし。しかも何故か僕のを。
さて、苦いだけだった料理を劇薬のような料理に変えてくれた雪菜さんはと言うと…「まだちょっと苦いわね」とか言って普通に食べてる。
あなたは辛党ですか、ああそうですか。
僕には逃げ道がないので…どうしよう?
誠さんのように他の事に逃げたいけど小説ないから同じ真似はできないし、花や葵さんのように夢の世界に逃げる事もできない。花は寝たフリだろうけど。
茜さん椿さん楸さん与一の4人はもう「腹一杯だから〜」って雰囲気出しまくってTV見てる。
空いていたはずの僕の腹は拒絶反応を起こしたかのように熱い。
これは多分キムチジャムの辛さが原因だろう。
僕はゴーヤーチャンプルだった物を少量だけご飯に乗せてお茶でかきこんだ。
「ご馳走様でした!」と言うや否や、僕は作業場に駆け込んだ。もう、今までにないくらい急いでね。
作業場からコッソリと居間の様子を伺ってみると、雪菜さんが1人黙々と「アレ」を食べているのが目に映った。
あの人の味覚とか腹の許容量とかどうなってんだろう?
雪菜さんの人気とやらも、この姿を見てしまえば下がる事間違いなしだろうな。本人は恐らく気にしないだろうけど。
寝たフリをしている花と目があった。
何か口パクで「助けて」と言ってるように見える。
ふと小説を読んでる誠さんの方を見ると、何か汗を流しながら困ったような視線を向けてくる。
作業場に逃げ込んだ僕を卑怯と罵るだろうか?ああ、来い!罵って来い!命の方が大事だ!
2人の視線は無視してさっきと同じく木を切る作業に取り掛かる。
こうなったら何とか気を紛らわすしかないだろう。
恐らく、不意に居間に立ち入れば誰かが誰かに「アレ」を食べるように勧める事必至。
もしその中で孤立してしまえば1人で全てを食べなくてはならなくなるだろう。
殺気にも似た空気を醸し出せる人間がゴロゴロいる空間には後戻りはできない。
何とか体を休めたいとは思うが、さすがに作業場には休める場所なんてないので黙々と作業に取り掛かる事にした。
雪菜さんが1人で片付け(食べ)てくれることを祈って…

また1つ木材を切り終えた。
ふと居間の方を見てみると、見事なまでに雪菜さんが「アレ」を全て食べ尽くしていた。
やったぜ、雪菜さん!あなたは凄いよ!とか思い浮かぶと同時に「アレ」と作り出した本人でもある雪菜さんは部で1番の危険人物のような気がした。
特に皿を片付ける様子もなく、その場で雪菜さんはTVを見ている。何か恐い。
つまりは花は「アレ」が無くなった事に気付いていないため、依然と寝たフリを続けているようだ。今は目を閉じている。死んでないよな?
誠さんは何故かビクビクしている…雪菜さんに気圧されている感じだ。
TVを見ていた4人も何だか肩が震えている。
ただ1人作業場で傍観者に回っている僕は居間の様子を一瞬で判断し、しばらくは作業場に留まる事を決意した。
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