半ば諦めがちに一人でキッチンに立つ。
意外な事に葵さんと雪菜さんがエプロンをつけて現れた。
「今日は疲れたでしょう?私達でやるから裕君は休んでてね」
「え?いいんですか?」
「任せて下さいよ」
お姉さん的な雰囲気を漂わせる雪菜さんに対し、何故か楽しそうな葵さんが無邪気に見える。
あー、何だか不安だーと思うも、ようやくまともな休憩をもらえたみたいなのでまだ続いている与一vs茜さんの格ゲーを傍観することにした。
ふと二人の手とコントローラーを見ると…指が見えない。
あまりにも早い動きで指の存在が確認できないのだ。
与一が負け、今までの通算成績が出る…
0勝196敗…
そう、あれだけのコンボ数を決めたりしていた与一が全敗していたのだ。
「フッ、甘いぞ与一」
「姉御ー強すぎっすよ!」
何故か呼び名が姉御になっている茜さんは「お?裕戻ってたのか」と呑気な様子。
「何で姉御なんだ?」
与一に聞いてみると、
「今までほとんど負けた事なかったんだけどな…姉御が強すぎるんで『師匠』って呼ぼうとしたら恥ずかしいからやめてくれって言われて姉御になったんだ」
姉御がよくて師匠が嫌な茜さんが不思議だ。
何よりあの指の動きは半端じゃない。
「キャー」
と声が聞こえたので振り返ってみると、キッチンから灰色の煙が湧き出ていた。
「な、何やってんだ」
慌てて立ち上がる茜さんがキッチンへ向かう、一応ついて行こうと立ち上がると…
「おっしゃ、勝ったぁー!」と動かないキャラクターをいたぶり終えた与一が目を爛々と輝かせている。
通算成績が1勝196敗になっていた。
「何やってんだお前?」と言ったのは与一。
「お前こそ無抵抗なキャラいたぶって何が勝ったぁー!だよ?」
「いや、こうでもしないと勝てないし」と悪びれる様子すらない与一に呆れた。
その間に煙は治まり、いつの間にか2年の女性陣が仲良く調理をしていた。
「さっきのキャーは何だったんですか?」
とりあえず聞いてみると、
「葵がちょっと…な」と茜さんが誤魔化す。
「裕君は気にしないでいいのよ」と雪菜さんが言うので、
「はぁ…」と不安は残るが空返事して戻る。
因みに花は爆睡中、誠さんの学ランをスッポリ被ってスヤスヤと…
誠さんは相変わらず読書中。
与一は格ゲーに飽きたのかゴソゴソとソフトを漁っている。
って、何で部室にソフトが100本近くあるのだと突っ込みを入れたくなったが言うだけ無駄な気がした。
しばらくしてビーフシチューらしき物の匂いがしてきた。

花の態度は酷いものだ。
一口食べて「あ、眠くなっちゃったのでおやすみなさい」と狸寝入りを始めた。
誠さんは「うーむ、独特な味付けだね」と引きつった顔をしている。
何故か実際に調理した3人はサラダばかり食べている、こちらは非常に美味しい。
というわけで、3人のビーフシチューは大失敗だった。
終始笑顔の葵さんに何度もフォークやスプーンを投げられて残飯処理した与一が非常に可哀相だった。
苦笑いの雪菜さんに「というわけで、これからは裕君お願いね」と言われ、僕の役職は完全に決まってしまった。
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