まだ春なので、七時前でも辺りは真っ暗だ。
そこに聳え立つデパートの廃墟は、なるほど確かに恐怖心を煽るものがある。
「じゃあ、くじだ。どれか適当に引いてくれ」
キタの手元には八本のマッチが握られていた。
恐らく、先端が同じ色のを引いたらペアになるのだろう。
右手からは女子が、左手からは男子がそれぞれ一本ずつ取り、キタの左手には最後の一本が残った。
「インチキ臭いんだけど…ま、いっか」
西条は勘付いていたようだが、特に気にする事なく祟とペアを組んだ。
キタの相手はちょっと五月蝿い感じの女子。派手系の男は美琴と。僕は車で助手席に座っていた女子とペアになった。
「順番はジャンケンな。男集まってくれ」
キタに従い、男四人で輪になってジャンケンをした。
「祟、俺、大沢、サイトの順番だな」
派手系の男は大沢というらしい。
「祟、気をつけろよ」
「え?」
怯えた様子で祟がキタに振り返った。
「変に近寄ったら何されるかわかったもんじゃ…」
背後に忍び寄る西条の気配に勘付いたのか、言葉を切ってキタはペアの女子の元に駆け寄った。
それに合わせて大沢も美琴のところに移動する。
「あ、西条」
最初に行く西条と祟を引き止める形になったが、どうしても聞かなければいけない事があったので呼び止めた。
「何?」
緊張のせいか、西条の声はいつもより張っている。心なしか祟も怯えているようだ…西条に。
「僕のペアの人の名前教えて」
「川嶺さんよ」
呆れたように呟くと、祟を促して西条は廃墟に足を踏み入れた。
こうして見ると、二人の身長差は殆どない。懐中電灯は祟が持っている。
そんな事を考えながら何気なく窓の数を数えていた。
「神寺君」
声のした後ろへ振り返ると、川嶺が一人で立っていた。
「よろしくね」
無理に笑顔を作っているのがわかったが、そこは敢えて何も言わずに返事を返した。
西条の言う嫌な予感という言葉が脳裏をよぎる。
二十分程して西条と祟が戻り、次にキタと唯一名前を知らない女子のペアが廃墟に姿を消した。
「どうだった?」
戻って来た二人に声をかける。
「何とも言えないわね。幽霊なんかのいる気配もなければ、特に寒いとも感じなかったし」
「西条さん、懐中電灯もなしに一人でどんどん進んで行くから僕も周りに気を配る余裕がなかったんだ」
呆れた。
キタと女子のペアは西条と祟のペアより十分長い三十分かけて廃墟から出て来た。
良い雰囲気とも取れる様子から、特に何かあったようにも見えない。
大沢と美琴のペアが廃墟に姿を消した後、何故か妙な胸騒ぎがしてきた。
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