家に帰って祖母に潰れたデパートの事を尋ねた。
「あのデパートかい。そりゃ、昔は賑わってたけどねぇ」
 語り始めた祖母に対し、時折修正を加える祖父。
 要約するとこうだった。
 デパートの建物自体は割と大きかったが、時代が時代なのでフロアは三階までしかない。
 潰れた原因は駐車場の確保が出来なかったとかで、交通の便の悪かったあの場所では次第に客が寄り付かなくなったらしい。
 それは表の話で、実は裏があったとか。
「あそこのオーナーが若い女の人でねぇ、そりゃもう凄い美人だったんだよ」
「樹遊ちゃん程じゃなかったがな」
 祖父のいらぬ合いの手は無視し、祖母に先を促す。
「それで?」
「いつも和服を着て、どこからともなくフロアに現れては接客指導なんかも良くやってたそうだよ。雇われのオーナーだった割には社員からの受けも良かったんだって聞いてるよ」
「雇われのオーナーだったんだ?」
「そうだよ。日本人形みたいな女の人でねぇ、彼女は私服で誰よりも早く通勤し、社員の誰が来るよりも先に和服に着替えて準備を始めてたそうで…」
「そんなの別に普通なんじゃないの?」
 やる気のあるオーナーならば、それくらいの事はやってのけそうだ。
「言ったろ?そのデパートは駐車場が狭く、交通の便も悪かったって」
「どういう事?」
「駐車場が狭い店に従業員用の駐車場を確保するわけもなく、誰よりも早く来たって事は始発の電車で数キロも先にある駅から歩いて通う他の社員よりも早く着いたって事なんだよ」
「だから、それがどうしたの?」
「まだわからないかい?若い雇われの身の女オーナーが誰よりも早く来るのは不自然なんだよ。近くに住居も無かったのに」
 確かに噂で聞いた話によると、デパートの周辺には民家やマンションの一つもなく、唯一の建物と言えば数百メートル離れた工場くらいしか無かったそうだ。
 それなのに駐車場を確保出来なかったのには理由がある。
 当時の道路工事は非常に効率や条件が悪く、デパート周辺に駐車場を作ろうとしても地盤が悪かったのと、営業中のデパート内にまで騒音が響く恐れがあったからだ。
「って事は、自転車か何かで通ってたんじゃないの?」
「それも無かったそうだよ。考えてもみなさい。雇われとは言え、オーナーの身分である若い有能な女性が、辺境の地にあるデパートに自転車で通うなんておかしいだろ?それに、オーナーの次に出勤した社員によると、朝来ても周囲に乗り物があった形跡もなかった」
「じゃ、タクシーとか」
「それも無かったそうだよ。他に考えられるのは、工場に勤める人間の車に乗っていたくらいなんだけど…」
「それじゃ時間が合わない」
「そうなんだよ」
 オーナーはどうやって出勤していたのか。
 それは当然の疑問ではあるが、肝試しとは関係が無さそうだ。
「そこで噂が立ったんだよ」
 こちらの思考を読むかのようなタイミングで祖母が再び語りだした。
「どんな?」
「オーナーはデパート内に住んでるんじゃないかってね」
「噂って事は、実際は違ったんでしょ?」
「それがわからないから今でも噂になってるんだよ。デパートに現れる和服の幽霊って話がさ」
「幽霊の話も知ってたの?」
「だから、あくまでも噂なんだよ。彩杜が尋ねたのは『デパートについて』だったろ?」
 この祖母は僕の質問の趣旨を理解していながら、その本筋には最後まで触れなかったわけだ。
「ネットでも噂になってたよ。『元デパートの廃墟に和服の幽霊現る』ってね。そこでデパートについて調べたらオーナーの事が後から後からわかってきたんだよ」
 なるほどと言う他無かった。
 祖母も幽霊騒ぎから調べた結果、結論には至らずに事情だけに詳しくなってしまったわけだ。
「私には調べに行く気力も体力もないからねぇ」
 最後にそう呟いた祖母は残念そうに見えた。
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