木曜日、講義の後営業を終了した食堂に集まった。
 西条の誘った女子三人と、キタ程ではないが割と派手な男。それに、小柄で少し暗い感じのする祟という男がいた。
 キタとしては、ただメインイベントの前日という名目で飲みたいだけなのだろう。
 軽く自己紹介してからキタが予約を入れていたと言う店に移動した。
 祟という男は酒を一滴も飲まず、西条は最初の一杯だけ、僕は軽く二三杯のアルコールを取って食事に専念した。
「神寺君って西条さんと付き合ってるの?」
 女子の一人が向かいの席から尋ねてきた。
「そう見える?」
「キタキタ君とは付き合ってないって言ってたから、消去法でそう思っただけ」
「僕は誰とも付き合ってないよ。西条も同じ。キタと三人で行動する事が多いだけだよ」
「ふーん」
 西条と祟はあまり喋らず、派手系の男二人と女子の三人の話が中心となってその場は盛り上がった。
 僕は聞かれた事に差し支えのない程度に答え、自分から質問する事はなかった。
 僕の向かいに座っていた女子は美琴と名乗った。
「珍しいでしょ?美琴って名字なんだよ。下の名前は地味だから皆には美琴って呼んでもらってる」
「僕も珍しい名前だと言われるけどね」
 読みだけならば神寺という名字は珍しくない。しかし、この漢字に加え、下の名前の読み方が英語と似た発音になるので珍しがられる。
「そうだよね。最初名前聞いた時ハーフかと思ったんだよ。でも、実際見たら生粋の日本人って感じ」
 楽しそうに話す美琴に相槌を打ちつつ、隣の騒がしい集団の声にも耳を傾けた。
 キタはどうやら明日の組み合わせの希望を取っているようだ。
「まあ、実際はくじなんだけどな」
 最後にそう言ったキタに二人の女子は不満そうな声を上げた。
 くじで組み合わせを決めると言うのは西条からの条件の一つだった。
「じゃあ、そろそろ解散だな。二次会行きたい奴いるか?」
 キタが料金明細を見て暗算で金額を掲示しながら皆に尋ねた。
「僕は帰るよ」
「私も」
 僕と西条は逸早く立ち上がり、キタにお金を渡してからその場を後にした。
「どう?美琴さんと仲良くなれた?」
 顔は澄ましたままだが、声の調子でからかっているのがわかる。
「さあね。また西条と付き合ってるのかって聞かれたよ」
「何て答えたの?」
「お互いフリーだって」
「そう」
 家の方向が一緒の西条と並んで歩き、数分歩いてから後ろから付いて来る人物に気が付いた。
「あ、こんばんは」
 暗い路地では存在感が先程より薄い祟だった。
「祟君も家こっちなの?」
 西条が尋ねると、祟は軽く頷いて「ごめん」と謝りながら僕の横に並んだ。
「聞こうと思ってたわけじゃないんだ。二人で話してるのを邪魔しちゃいけないと思って声をかけ辛くて…」
「別に聞かれて困る事はないから気にしなくて良いよ」
「そう、良かった」
 安堵した様子の祟を交え、三人で会話をしながら薄暗い道を歩く。
「祟君は幽霊とかいると思う?」
 西条が尋ねると祟は少し悩んで答えた。
「見える人ならいると答えるし、見えない人はいないって答えるよ」
「それは、祟君が見える人と考えて良いのかしら?」
「いきなり寒気がしたり、気分が悪くなったりする事があるんだ。そう言う時に『幽霊じゃないか』と考えてしまうだけで、実際に見た事はないよ」
「やっぱりキタの思い込みだったのね」
 西条の呟きに頷いて答えた。
「実際に幽霊がいるとしたら、それこそ幽霊を信じない人達に何かしらの行動に出るだろうからね」
「じゃあ、神寺君は幽霊の存在を信じてないの?」
「僕が信じてるのは目に見える物だけだからね。もしいるなら、僕の目の前に現れてから信じるよ」
「じゃあ、明日信じる事になるかも知れないよ」
「それってどう言う…」
「あ、僕ここから道違うから。またね」
 小柄な祟は逃げるように去って行った。
「あの子、幽霊は信じてないとしても、何かしらの現象を見た事があるかもね」
 本人がいなくなると「あの子」呼ばわりを始めた西条に尋ねた。
「何かしらの現象って?」
「ポルターガイストとか」
 西条まで変な事を言い出した。
「なら聞くけど、西条は幽霊を信じてるの?信じてないの?」
「いるなら信じるし、いないなら信じない。彩杜と一緒ね」
 上手くはぐらかされ、気が付けば西条のワンルームマンションの前だったので質問を許される事なくその場で別れた。
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