「明日、キタを連れてまた廃墟に」
 との口約束をして、西条は食後に帰って行った。
 キタには西条から連絡を入れてくれるとかで、僕は明日の迎えが来るまでは睡眠と漫画の世界に入り浸れる。
 そして翌日、漫画をやめられなくなり、結局は徹夜をしてしまった。
「馬鹿だねぇ、今日も約束あるんだろ?」
「うん…」
 祖母の言葉に頷くのも精一杯といった様子の僕に、祖父母は二人してため息を吐いた。
 食欲は無かったが、少しでも腹に入れておけという二人の言葉に従い、お茶漬けと漬物を口にしてシャワーを浴びた。
 古い建物だが、便所も洋式だし、風呂も脱衣所とわかれていてシャワーの設備も揃っている。
 適当に頭を拭いていると外からクラクションの音が聞こえた。
「樹遊ちゃんが来たよ」
「はいはい」
 急いでタオルを投げ、財布や携帯等の必要な物をポケットに押し込んで外に出た。
「おはよう」
 徹夜明けには眩しすぎる笑顔の西条に挨拶を返し、門の外で待っていたキタの車に乗り込んだ。
「西条頭でもおかしくなったの?」
 朝からにこやかな笑顔なんて西条らしくない。
「何言ってるのよ。彩杜が見たっていう幽霊のトリックがわかったのよ。今日はその確認ね」
 鼻歌でも歌いそうな西条を後部座席に、僕は助手席に座ってキタから缶ジュースを受け取った。
「ありがと」
「おう」
 冷たい缶ジュースを開けながら車の外の景色を眺めているとキタが何のために行くのか説明を求めて来た。
「最初にキタに訊いておきたいんだけど、本当にキタが発案者なの?」
「ん?一応そうなるな」
 キタが言うには、たまたま祟と話していたら祟から幽霊騒ぎの噂があったと教えて貰い、どうせだから集団で肝試しでもしようとキタが思いついたのだそうだ。
 最初は祟はやめておいた方が良いと言ったらしいが、キタが強引に押し切って肝試しの決行に至ったと言う。
「そう考えると、怪しいのは祟だよなぁ…」
 僕達が調べている事を知らないキタは、川嶺の様子が変だった事も気にしてないようだ。
「キタには着いてから順を追って説明するわ。彩杜もそれで良いでしょ?」
「僕は良いけど」
 それで納得するのかとキタを見ると、キタも「おう」と答えて運転に集中した。
 それから数分で廃墟に到着し、廃墟の周囲を一周して来た西条に続いてまずは二階まで階段を上がった。
「私がまず不思議に思ったのは、ここで吹いた冷たい風について」
 マネキンの前に立った西条は確認するように僕とキタを見た。
「オーナーの隠し部屋の噂について覚えてる?」
「ああ、確か、ここで暮らしてるとかどうとかって話だな」
 キタが答えると西条は小さく頷いた。
「さっき外から窓の数を数えてみたの。普段は窓は駐車場の横からしか見えないけど、縦に七つあったの」
 だから何だと言うのだろう?
「このマンションのフロア数は三階。どの階にも、窓ははめ込みのものが縦に二つ。屋上に窓はない。どういう事かわかる?」
 それなら簡単だ。7−2×3=1で、半階分窓が余る事になる。
「昨日彩杜と二人で来た時、一階から二階への階段の段数は二十四、二階から三階への段数は三十六だったのよ」
「二階と三階の間に隠し部屋があるって事か?」
 キタが質問を返す。確かに西条の言い方だとそうなるはずだ。
「そう思うでしょ?でも、実際は一階と二階の間にあるみたいなの」
「何でそうだと言い切れるんだ?」
「ここを見ればわかるわよ」
 西条が靴で足元をトントンと踏んで示した。
 何かあるのだろうとキタと一緒にそこにしゃがみ込む。
「このデパートの窓は全てはめ込み式で、換気には使えない。そこで、通気性のためにちょっとした仕掛けがされてたの」
 その足元には、床の色と同一色のプレートのような物があった。
 左右を見渡すと所々そういった箇所が見受けられる。
「簡単な話よ。換気出来る場所がそこしかないのなら、空気の出入り口もここしかない。ここに氷でも置いておけば、中の空気が出てくる際に氷の冷気で冷たく感じるってわけ」
「そんな物いつの間に置いたんだ?」
「そこで、キタの作ったクジなのよ。祟君はこう言ってなかった?『怖いから最初に終わらせておきたい』って」
「ああ、そんな事言ってたな…って、クジの事ばれてたのか!?」
「当たり前でしょ?キタが私以外の誰かと二人でここに来るには、四分の一の確率すら恐れるだろうし」
 つまりは、キタはそこまで西条と二人きりになるのを恐れていたと。
「あ、いや、それはだな…」
「もう良いわ。ただ、それとなく川嶺さんも最後にとか、言ってたと思うの。キタの心理を利用して、自分達に都合の良い順番にするためにね」
「で、肝心の出入り口は?」
 これだけでは、ただ通気口があったというだけで隠し部屋の存在の証明にはならない。
「隠し部屋への出入り口は三階よ。ついでに言うと、マネキンの目に塗ってあったのもただの塗料よ」
 それは知っていたが、気分良く進める西条に花を持たせるつもりで黙っておいた。
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