翌日土曜日の昼、自分の部屋でゴロゴロしていると西条から電話が入った。
『今何してる?』
「漫画読んでる」
『暇って事ね。ちょっと付き合って欲しいの』
「何に?」
『昨日の廃墟。川嶺さんと彩杜の言葉に食い違いを感じるの』
それを言うなら、僕も腑に落ちない事だらけだ。
「わかった。キタも誘う?」
『いいえ、二人で行きましょ』
という事は、タクシーか何かを使う事になりそうだ。
「じゃ、迎えに行くから待ってて」
『タクシー呼んでおくわね』
電話が切れた後、古い母屋の階段を下りて祖母に声をかけた。
「ちょっと出てくるから」
「おや?折角デパートの話を聞かせてもらおうと思ったのに」
「帰ったら話すよ」
「デートかい?」とからかうような声を背に、靴を履いて西条の部屋に向かった。
「あと十分くらいで来れるみたいだから中で待ってて」
そう言われて上がった西条の部屋は綺麗に片付いていた。
引越しの時、家具のついているワンルームマンションで、手伝いという事で上がった時以来になる。
その時も荷物は少なかったので、キタの車で一往復すれば良かった。
「行く前に一つ聞いておきたいの」
「ん?」
僕の貸した漫画が本棚に納められていることに違和感を覚えたが、西条の方に向き直って話を聞いた。
「彩杜が見たものは、本当に幽霊だったと思う?」
「んー…どうだろ?」
今になっても良くわからないのだ。
いや、今だからこそ、「幽霊を見た」という感覚が薄くなり、記憶がどんどん曖昧になっているのかも知れない。
「ま、いいわ。その様子だと本気で信じてるわけじゃなさそうだし」
「西条は何も見てないんだろ?」
「ええ、殆ど暗がりの中を歩いているようなものだったからね。祟君に懐中電灯を持ってもらってた事だし」
立ち上がった西条は窓から外を見やり、タクシーが来た事に気付いて外に出るように促した。
「続きは着いてから話しましょ」
先に出た僕がタクシーの右側に座り、西条がその横に腰を下ろすと運転手が面白い物でも見る目で僕達をミラー越しに見比べた。
「どちらまで?」
「工場までお願いします」
え?と西条を見ると、澄ました顔で前方の窓ガラスを見ている。
「あの廃墟の先にある工場かい?お父さんでも勤めてるのかな?」
結構喋るタイプの運転手のようだ。
「そんな感じですね」
西条は淡々と受け答えする。
「そういえば、この間…確か水曜くらいだったかなぁ…姉弟だって言う二人組も工場まで乗せてったんだが」
運転手には見えないように、西条は僕の手を突いた。
「どんな二人組でした?」
西条ばかりが話していると不自然だと思ったのだろう。今度は僕が質問した。
「ちょっと肌の黒い男の子と、最近の子って感じの女の子だったね。その子達も君と同じ嘘をついたよ」
運転手の目がミラー越しに西条の方を見るのがわかった。
「何の事ですか?」
「わかってるだろ?あの工場に君の父親は勤めていない」
中々鋭い運転手だ。
「何故わかったんですか?」
西条は正直に白状した。
「君達、こっちに来たばかりだろ?あの工場の従業員と、この辺の運転手は大抵顔馴染みだからな。近所付き合いとか色々あるのさ」
「そして、私達くらいの子供がいるような家庭は把握していて、新しく勤め始めた人達は私達の父親としては歳が合わない」
「そういうこった。大方、工場とカモフラージュしてあの廃墟にでも行くつもりなんだろ?」
はいと答えた西条は少しばかり嬉しそうだった。
嘘がばれたのなら工場まで行く必要はない。
目的地を廃墟に変更し、祟と川嶺らしき二人がタクシーに乗った時の様子を話してもらった。
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