大沢と美琴のペアがかけた時間も三十分程。
出て来る時に大沢の顔が少し青く見え、美琴も少し不機嫌そうだった。
何かあったのか聞く時間を与えられず、キタに促されるままに川嶺と廃墟に足を踏み入れた。
「結構明るいね」
僕の持っている懐中電灯は前三組のペアが使ったものだ。
それとは別に、抜けた窓からの月明かりで多少は明るく感じるものの、月の光が天井に反射するわけでもない。
「川嶺さんは幽霊とか信じる?」
「…あたしは信じるも何も今まで一杯見てきたから…」
「幽霊を?」
「うん」
演技なのか、場の空気のせいか、本当に怯えているように見えた。
「それって、昔からなの?」
「小学校の頃に初めて見た時、物凄く寒かったの覚えてる。今くらいの時期で結構暖かかったのに」
階段が見えた。
他に道はなさそうなので、軽く蹴って大丈夫そうなのを確認してから最初の一段に足を乗せた。
「ちょっと、神寺君速いよ」
「あ、ごめん」
割とゆっくり歩いているつもりだったのだが、川嶺にはそれでも速く感じたらしい。
歩調を抑えて階段を上がりきった。
「うわ…ここから暗いね」
月の光が雲に隠れたのか、それとも単純に設計上そう見えるのかはわからないが、ここからは懐中電灯なしには歩けそうにない。
階段のところからぐるりとフロア全体を懐中電灯で照らした。
キタの言っていたらしいマネキンがそこにはあり、懐中電灯の光で目が光っているように見えた。
「あれが噂のかな?」
「そうかもね。マネキンの目そのものが光るんじゃなくて、光を反射しやすい物を使ってるだけみたいだけど」
川嶺が着いて来ている事を確認しながら、そのマネキンに近寄った。
近くに寄って至近距離でマネキンの目を懐中電灯で照らしてみる。
「ちょ、ちょっと、そんな事して…」
大丈夫なの?と続けられる前に言葉を発した。
「何か塗ってある」
「え?」
マネキンの目の下に液体が少し垂れているのが見えた。
「マネキンが泣いてるの?」
「そんなわけないだろ」
苦笑しながら答えつつ、その液体に手を伸ばそうとしたら川嶺の小さな悲鳴が聞こえた。
「どうかした?」
「あ、あそこに和服の女の…」
移動してからわかった事だが、月の光が当たる場所もあるらしく、川嶺の指差した先もここから見ると月の光で少しだけ明るく見えた。
指差された場所を懐中電灯で照らす。
「別に何もないみたいだけど?」
「そんなことない!あたしには幽霊が見え…」
次の瞬間、寒気のする冷たい風が吹いた。
廃墟とはいえ、屋内でこれ程冷たい風が吹くのはおかしい。
風の吹いた方に向き直り、懐中電灯で照らして何かあるのか調べようとしたが、
「神寺君、そんなのどうでも良いから早く行こうよ!」
との怯えた川嶺の声に気圧され、もう一度だけフロアを懐中電灯で照らしてからさっきの階段の続きを上がった。
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