∽@2∽     〜でんせつのつるぎと 胎動の嵐〜 



春先の太陽は、ほぼ南中辺りに位置しているか。 
気持ちの良い春の日差しが、@の部屋の小窓から入ってくる。 

早起きした時とは違い、村民の声も流石に増えてきたようだ。 
その住民の会話が小窓から入ってくる。 


だが、いつもなら嫌でも聞こえてくる、小窓から入ってくる村民の会話は、今の@には聞こえなかった。 


あの後、キャリーにはランドの事を告げずに帰宅した@。 

だが「人間共の最期」というランドの言葉が帰宅した@の頭を支配して、思考を鈍らせていたのだ。 

否、思考どころか、全神経を鈍らされる痛々しく、苦しい感覚だ。 


一体何故、ランドの言葉がこれ程までに苦しいのだろうか。 

ランド自身ではなく、ランドに異常なセリフを吐かせた、正体分からぬ原因に対し 
何故これ程までに警戒し恐怖しているのだろうか。 

昼食をとった@はすぐ横になった。 

否、ただじっとして、 
ランドの言葉の意味を考えることしか行動を許されなかったのだ。 



…横になり、少し落ち着きを取り戻した@。神経も解放されつつある。 


窓から入ってくる陽の光りが、朝よりも明るく暖かい。 

心地良い草花の香りが春風に乗って、同じ窓から吹いてくる。 


木々のざわめきや、モンスターではない普通の小鳥のさえずりも聞こえてきて、耳から癒される。 

だからやっぱり、僕はこの春の陽気が大好きだ。 

傷ついても、嫌なことがあっても、眼に見えない恐怖というものに縛られていても… 

この春の陽気に包まれればいつでも慰めてくれるから… 

そして今も、大好きな陽気に慰めてくれているんだ…… 





………闇。見渡す限りの闇。他に例えようのない闇。 

それは黒く、暗く、静まりかえり、そして…切ない…… 
まさに漆黒の二文字だ。 



闇の静寂に、暫くしてパリーーンという何かが砕けるような音が響く。 

3,4回程、同じ音が響き終えたのとすぐに、一筋の細い光が闇に差し込んだ。 

上から差し込んできた細い光は、まさに希望の光というべきか。 

切ない闇に差し込んだ希望に、物凄い安心感と生気が湧き揚がるのを感じる。 

そしてその光の中に、何らかの影が見られた。 
細い光に包まれる程の細さで、縦に細長い影。 

その影の正体を探ろうと、影に近づこうとした、その時。 


光の中の影から、四方八方に閃光が放たれた。 

漆黒の闇を、光の空間にせんばかりに閃光が放たれている。 
影は閃光を放って光り出した…というよりも、それは輝いているようにも見受けられる。 

まるで真夏の太陽を間近で見ているような強い輝きにより、 
闇は呑み込まれ、さっきとは全く正反対の空間が広がっていく。 

光。他に例えようのない光。 
白く、明るく、あたたかい… 


そして、つい先程まで闇の空間だったとは感じさせない、純白の空間が現れた。 

またこの時、細長い影の正体が判明された。 



握りやすそうなグリップに、横に長めの鍔。 
明るい空間に居ても分かるぐらい、常に黄金に輝いている刃。 
その刃の部分には、なにかの文字のような記号のような柄が刻まれている。 


…そう、剣だった。 

おそらく世界の鍛治屋が皆、見て触っても、 
その形や、光沢、質、斬れ味、絶対的な存在感…… 

あまりの魅力の多さに見とれて納得するだろう、 

至高の剣に見えた。 



刹那、更に強い輝きを放つと同時に、 
剣が語り出した… 


「……狂者…謀るであろう紅…別れを越え…蒼き出逢い……やがて…であろう… 
世界ほう……せか…混色…制裁…貫く為ゴオオオオォォォッ………!!!」 

轟音。 


突然の轟音に、@は昼寝から眼を覚ます。 
窓から入ってくる、あまりにも唐突で、物凄い轟音と風圧… 

時々外が暗くなったりもする。その嵐に、@は寝起きの面で 

唯、じっとして嵐への恐怖にたじろくしか出来なかった。 

幾度となく続く轟音と突風の嵐だが、時折、何故か数秒間だけ途切れることもあった。 

しかし、すぐに次の嵐がやってくる…こちらに休みを与えてくれない唐突で冷酷な嵐だ。 

季節外れの台風、と言ってもいいだろう。 


…ランドの事や輝かしい剣の事、今吹き荒れる轟音と突風の嵐…ようやく整理がつき、事態を把握した@。 


一体何故、轟音突風の嵐が起きたんだろう。 


ランドや剣を忘れて、決して返事の無い嵐の理由を、ひたすらその嵐に問い出す@… 

やがて@は、その小さな身体に反動を付けて勢い良く跳ね起き、 
母の居るであろう母の部屋へ向かおうとした。 

……@の家…家といっても、洞窟のように掘って作った蟻の巣同然のもの。 

蟻の巣のごとく、いくつかの部屋も掘ってあるようなものだ。 

唯一蟻の巣と違う点は、縦に掘ったのではなく、横に掘ったトンネル風の蟻の巣であること。 


…といった構造は、モンスターの典型的な家の一種だ。ごく普通の家と言ってもいいだろう。 


…しかし、こんな普通の家だが 
父親が唯一遺した遺産でもある家なので、@は他の誰よりも、家の存在を特に愛していた… 


昼寝していた@の部屋から母の部屋へ行くには、@の部屋を出て、 

地上への出入口が左に開けている廊下を通らなければならかった。 

剥きだしになった出入口から吹き込んでくる、凄まじい風圧。 


部屋に居た時よりも大きくはっきりと聞こえる轟音。 


出入口を覆うような何かが通り過ぎるのだろうか、一瞬暗くなる家内。 


出入口に近づくにつれ、嵐の勢力がいか程のものかが伺えてくる。 

その風圧はまるで、@よりも一回り大きい体格のランドに力ずくで 
連続して圧されるような感覚であり、 


先程よりも大きくはっきりと聞こえるようになった轟音は、音というよりも 
モンスターの鳴き声に近い事が伺えた。 


だが時々家内が暗くなる原因はまだよく判らない。出入口を覆うような何かが移動しているのは確かだが… 






…刹那、どこか覚えのある感覚が@を襲った。 


体中で感じられる、物凄い風圧とはまた違う、何かに圧されるこの感覚… 





ウエストマウントの集会所…と呼ばれる山の大洞窟で、年に一度の祭に拝めることの出来る三体の黄金の像… 


あの三像が蔵から出された時に感じる感覚に、似ている。 



「…この嵐は一体なんなんだよぅ…」と改めて嵐に訴えかける@。 


そして恐怖に怯えながら、小さな決意をした。外の様子を探ってやろう、と。 



左の出入口に、右半身だけを出して、右眼でおそるおそる覗いてみようとした。 


が、風圧のおかげで眼を開けない。4,5秒間右眼を閉じて、 
再び出入口を、今度は眼を半開きで見ようとした。 






…? 何なんだろうか…何か複数のものが見える。 


色は判らない。形も曖昧で何かよく判らない。 
とにかく黒い影がたくさんだ。 


唯一判るのは、影が雷のごとき速さで、山頂の方角へ飛んでいる事。 




判るのはただ、それだけだ… 

暫く外の様子を伺っていたが、 
ようやく嵐がおさまった。 


おさまってからも様子を伺がい、暫くしてからおそるおそる外へ出る@。 




ふもとの方を見下ろし、影はもう来ないのか確認する。 


振り返り、今度は頂の方に視線を向ける。 



…だが、特に何も無い… 


その場で頂を見つめ、突然震え出す@。 






ランドの不快な笑みと言葉… 
頭から離れない、闇と光の空間と光輝の剣の夢… 
突然の嵐と妙な感覚… 


早朝から立て続けに起こる不可解な出来事の連続… 




@の身体が、意志に反して震え出す。 
何を察したのか…冬でもないのに、小さな身体が震え出して止まらない… 






そして運命は、胎動した。 


作者:◆ID.Q0Vgm2M氏
  小説トップへ  トップへ