∽@1∽ 〜その名は@。小さき希望〜 @... 朝日の差し込む部屋。ほのかに花の香りがする部屋。 ━━ぅん?朝か…。 僕はゆっくりとした動作で起きた。朝の光がまぶしい。 @「あれ…?」 僕は少し意外だった。いつも寝坊する僕が自分から起きるなんて、珍しいからだ。 二度寝しようとも思ったが、思ったより目が冴えてしまった。僕は仕方なく、少しあたりを散歩することにした。 〜ウエストマウントの村〜 僕は家をでると、村を見て回った。特に意味はなく、なんとなくなんだけど。 @「ふぅ…、でもすごいなぁ。」 言葉が示すとおり。春先のこの村は丁度桜が満開で、辺り一面にピンクの色がにじむ。 僕は好きだ、この風景が。夏も秋もきれいだけど、でもやっぱりこの風景が好きだ。 僕が傷ついた時、まるで僕を慰めてくれているような、この風景が…。 ━と、そのとき、@は不可解なものを目にした。 まさに今、山を降りようとしているあの後ろ姿は━━ @「━━ランド!」 一瞬その背中がびくついたかと思うと、急いで遠ざかっていく。 @「おかしいな、いつものランドなら、すぐ声をかけてくるはずなのに…?」 そう言いつつも、僕もすでに駆け出していた。何があるのかは分からなかったけど、あそこは危険だ。 村の出口からしばらく山を下っていくと、そこでランドは立ち止まっていた。 ランド「…よぉ。」 あまりにもそっけない言葉に、僕はおもわずたまった息を一気に吐いた。 @「はぁっはぁっ、…ふぅ。おはよう、ランド。」 ランド「…なんだよ、何か用か?」 明らかに様子がおかしい。 @「何か用か?、じゃないよ。ランドだって知ってるじゃないか、僕たち@は危ないから一人で山を下っちゃいけないって!」 ランド「…うるさい」 @「どうしたの?今日のランド、いつもと違うよ?」 ランド「だまれっ!!」 ━━ランドが叫んだせいか、辺りは妙な静けさを放ち、ランドの声が何度も響いた。 その言葉に僕はなにも言えず、ただランドを見ていた。桜の葉が、風に揺れてがさがさとざわめく。 先に言葉を発したのは、ランドだった。 ランド「なぁ、@。俺ら、11歳なんだよな?」 @「うん、そうだね。キャリーもあわせて、僕たちは。」 僕は自分でも驚くほど、あっさりと答えた。 ランドはそれに動じようともせず、ただうつむいて、こう言ったんだ。 「ハハ…情けねェよな。まだこんな時期なのに、来る日も来る日も、口ン中に粘液がたまってくんだよ…。」 @「ぇもしかして過渡期の前触れじゃないの?別に情けないことなんかじゃむしろ」 しかしランドは、@を独特の鋭い睨み方で睨み ランド「何ぃ本気で言ってんのかぁ。お前も知ってるだろ。山の下にある村の人間共が、過渡期直前の芋虫を獲りに来ることを。」 @はその瞬間、人間という言葉を聞いて、凍りついたかのようにかたまる。かつて父親を殺した、人間という生き物の名前を聞いて。 ランド「奴等、どんな手を尽くしてでも獲りに否、喰いに来る。まだアダマンキャリーになる夢を持ち始めた芋虫を 何のためらいも無く獲るんだぞ。そう、だから俺は殺られる前に殺る。 情けねェよな、こんな手段をとるしか、人間共の牙から逃げられねえなんてよォ」 @「え、そ、それは無茶だよ!いくらなんでも村に一人で向かうなんて。」 焦りを見せる@をちらっと見てから、再び村を見るランド。突然薄笑いをしはじめ ランド「否。いくら俺でも、んな馬鹿なことはしねェよ。ただ、人間共の最期の笑みを 拝みにきただけだ。」 @はその場で時を止めたかのように、完全にかたまった。 再び辺りは妙な静けさを放ち、桜ががさがさとわめき出す。否、さっきの妙な静けさの時から 桜はわめいていた。 しかし@には、確かに今、再びわめき始めたかのように聞こえていたのだ。 そして次もランドが先に言葉を発する。 ランド「さぁて、そろそろ戻るか。朝っぱらから久々に大声出してスッキリしたぜ。 実にいい朝だ、ククク。」 @はもう何がなんだか分からなかった。ランドの様子が異常の域に達している事。 人間の最期の笑み何故最期なのか 何故なのか。 @は暫くして、ランドの戻っていった方を見る。もちろん、既にランドの影はない。 @はランドの異常、人間の最期の笑みその意味をランドに求めるように、 ランドの戻っていった方を見つめる。 ━━━実に春らしい、気持ちの良い光りを放つ太陽が大地に垂直に登っている。 あの後も@は、ランドの不快な笑み、行動、人間の最期という言葉━━━ それらに隠された、ランドの思惑を理解しようとしていたが、結局何も見出だせずに欝むき加減で散歩していた。 ふもとの人間の村から、正午を知らせる鐘が鳴る。 @は考えていたモヤモヤを鐘の音に乗せて振り切り、帰路に向かい歩み出した。 辺り一面の桜色に癒されつつ、心が和むような草花の匂いが、暖かな春風に乗って@を優しく抱く。 心なしか朝よりも心地良く感じられた村の空気に浸りながら歩いていると、 暖かな風に似たような愛着ある声で、@を呼び止める影が、道の横の花畑の中に見えた 近所に住む、同年代の幼なじみ。典型的な友人関係にある、@の友達だ。 「おは…えーと、こんにちは@」 @「あ、、、こんにちは、キャリー」 キャリー、同じ芋虫種だがキャリーはメスだ。@と同じ歳ながら、@以上に気品が漂う大人びた雰囲気の芋虫。 キャリーが自分よりも大人びている事は、@自身、気付いている。 キャリー「お散歩の帰り?」 @「え? あ、うんそうそう。お腹が空いてきたからそろそろ帰ろうかなーって…」 @をじっと見つめる眼。どことなく神秘的な感じのするその眼差しは、まるで他者の心を探るようなものであった。 キャリー「何かあったの?なんだか難しそうな顔をしているようだけど…」 見抜かれた。@の思ったとおり、神秘的な眼差しは心を見抜く眼差しだった。 僕以上の気品さは流石というだけのことはあるね。その気遣いや気品上品さ… どんなものでも見抜くようなその優しい力…簡単に見抜かれたよ━━━ @はキャリーを半分尊敬、半分警戒するような気持ちになった。 女の眼力、されどモンスターといえど母なる存在にあるメスという種族に、一種の恐怖を感じた@。 …しかしそれと同時に別の恐怖が@の小さな身体を駆けめぐった。 @「べ、別に何もないよ…?」 そう、何か様子がおかしかったランドに恐怖心を抱いていたのだ。 それもランド自身に対する恐怖心ではなく、ランドをおかしくさせた"何か"に恐怖心を抱いていた@。 だいたいいつも口が悪く、どっちかというと不良気味のランド。 でも時折助けられたり信頼もできるランド。 そんな@たちの兄貴分が、今朝は何故か、いつもよりも様子が少しおかしかった。 そう、ただ、少し機嫌が悪かっただけの事だ。キャリーには関係ないよ。 キャリーには関係ないさ、ランドをおかしくさせている恐ろしそうな"何か"なんて関係ない。 ひょっとすると、ランドをおかしくさせている"何か"はそんなに恐くないかもしれない、何か些細なことなのかもしれない。 しかし@は、その"何か"に対し、異常なまでの恐怖心と警戒心を抱き、キャリーには関わらせないようにした。 何故自分はこれ程までに恐怖し、警戒しているのか。 今の@にはとうてい分からない事だ。 そう、その小さな身体で弱気な存在が、小さな希望という存在に生まれ変わるなんて事も、@自身知るはずもなかった…作者:◆ID.Q0Vgm2M氏小説トップへ トップへ